5.シャドウ・エクリプス

ステージが完全に静寂に包まれると、観客は余韻に浸りながらもゆっくりと解散し始めた。ボマーは軽やかなステップでステージを降り、私の方へ戻ってきた。彼の顔には満足げな笑みが浮かんでいた。

「待たせたにゃん。これが、俺たちの音楽だにゃん。」ボマーは自信満々にそう言って、私の方を振り返り、ニヤリと笑った。

私が何も言わないうちに、ボマーは後ろを振り向き、カシミールとイーヴルに向かって手招きした。「お前たち、こっちに来るにゃん。紹介する奴がいるにゃ。」

カシミールはギターを肩に掛けたまま歩いてきて、その横にはイーヴルがドラムスティックをクルクルと回しながらついてきた。カシミールの瞳は鋭く輝いており、ギターを持っていない時でもどこか堂々としたオーラを放っていた。イーヴルはその対照的に、リラックスした雰囲気を漂わせながらも、内に秘めたエネルギーを感じさせる。

「こいつが今日俺と一緒にセッションを見てたヤツだにゃ。カシミール、イーヴル、こいつに挨拶してやれにゃん。」ボマーはそう言って私を二匹に紹介した。

カシミールは少し顎を上げて、「よろしくにゃん」と短く挨拶しながらも、鋭い目で私を見つめていた。イーヴルは、スティックを軽く指で回しながら笑顔を浮かべ、「楽しかったかにゃ?俺たち、音楽がすべてだからにゃん」と軽い調子で話しかけてきた。

「すごく…圧倒されました。あなたたちの演奏がこれほどまでにパワフルだなんて…」私は正直に感想を伝えた。

「まぁ、俺たち、昔一緒にやってたバンドで鍛えられたからにゃん」とボマーが軽く言うと、イーヴルがニヤリと笑った。

「そう、『シャドウ・エクリプス』ってバンドだにゃん。もう解散して久しいけど、あの頃は毎日が勝負だったにゃ。俺たちが一つになって、音を創り上げていたんだにゃん」とカシミールが懐かしそうに語り始めた。

「シャドウ・エクリプス…」私はその名前を反芻しながら、不思議な響きを感じ取った。

「そうにゃ。俺とカシミール、イーヴル、そして…まあ、もう一人のボーカリストがいたんだにゃん。あいつがフロントマンとして、俺たちの音楽を引っ張ってくれてたにゃん。みんながあいつに注目してたけど、音は俺たち全員が一緒に作り上げたんだにゃん。」ボマーはその名前を伏せながら、どこか懐かしそうに話を続けた。

「シャドウ・エクリプスは、ただのバンドじゃなかったにゃ。あの頃の俺たちは、音楽そのものを生きてた。音が俺たちを繋ぎ、ステージの上で全てが一つになっていったんだにゃん」とイーヴルも続けて言った。

「でも、今はそれぞれの道を歩んでるにゃ」とカシミールが冷静に付け加えた。「けど、こうやって時々集まって、セッションすることもある。今日はその一環にゃん。」

「だから、今夜のセッションは特別だったにゃん」とボマーは誇らしげに言った。「あの頃の感覚を思い出しながら、今の自分たちの音も加えて楽しんでたんだにゃ。」

私は彼らの話を聞きながら、かつての「シャドウ・エクリプス」がどれほど特別なバンドだったのかを感じ取った。彼らの間には、今もなお強い絆があり、それが音楽を通じて伝わってくるようだった。

「もしかして、そのボーカリストとは今も繋がっているんですか?」私は思わず聞いてしまった。

しかし、ボマーは少しだけ笑って、「それはまた、いつか話すにゃん」と答えた。

その答えに、私はさらなる謎と期待を抱きながら、彼らとの時間を大切に感じ始めていた。


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