薄暗い夜の中、私は目を覚ました。周りは見慣れた自分の部屋ではなく、どこか幻想的で異世界のような光景が広がっていた。ネオンの光がきらめき、空には大きな月が浮かんでいる。どこからか流れてくる音楽が、まるで生き物のように私を包み込んでいた。

「ここは……どこ?」

私は思わずつぶやいた。何もかもが現実離れしているように感じられたが、どこか心地よさもあった。まるで夢の中にいるような感覚に、私は混乱しながらも歩き出した。

街のあちこちにはネコたちがいた。だが、ただのネコではない。それぞれが楽器を持ち、まるで音楽家のように演奏しているようだった。ダウンタウンでは、鋭い目をしたネコたちが、激しいメタルのリフに合わせて頭を振り乱し、アッパータウンでは、しなやかな体を持つネコたちが、ジャズやブルースの音色に合わせて優雅に踊っている。

その中でも、一匹の白いネコが私の目を引いた。ふわふわの毛並みと大きな青い瞳が印象的で、どこか誘うように私を見つめていた。そのネコが小さな声で「にゃあ」と鳴くと、私は思わず微笑んでしまった。

「かわいい……」

そのネコは、私の言葉に応えるように、前足で軽く私の足に触れた。まるで「ついておいで」と言っているかのようだった。私はその誘いに応じ、彼の後を追うことにした。

その白いネコに導かれるまま、私は大きな建物の前に辿り着いた。荘厳でミステリアスな雰囲気を漂わせるその建物には、煌びやかなネオンが輝いていた。文字が書かれたそのネオンには、「ルナティック・ナイト・ホール」と記されている。

「ルナティック・ナイト・ホール……?」

私はその名前を口にしてみた。聞いたことのない名前だったが、不思議と何かを感じる響きだった。その瞬間、白いネコが軽くホールの扉を押すと、扉が静かに開き、中からはさらに強烈な音楽が流れ出してきた。

ホールの中に入ると、目の前には別世界が広がっていた。巨大なステージが中央にそびえ立ち、その周囲にはネコたちが集まっていた。それぞれが楽器を持ち、生き生きとした音の生物のように演奏を楽しんでいた。

突然、私の背後から鋭い声が響いた。

「……お前、人間か?」

驚いて振り向くと、バイカーファッションに身を包んだネコが立っていた。その瞳はサングラスにおおわれていたが、何かを見透かすような雰囲気があった。

「名前はボマーだにゃん」

彼は、私が何も言う間もなく、自分の名前を名乗った。その声には挑戦的な響きがあり、私は思わず身構えてしまった。しかし、彼の視線には敵意ではなく、興味が混ざっているように感じた。

その時、ステージの上でギターを弾いているネコが目に入った。なめらかな毛並みを持ち、セクシーな瞳が闇の中で輝いている。彼が弾くギターの音色は、まるで魔法のように空気を震わせ、その音が私の心に直接語りかけてくるかのようだった。

「彼の名前はカシミールにゃ」

ボマーが私の隣で静かに言った。その名前を聞いた瞬間、私は彼がただのネコではないことを直感的に理解した。カシミールという名は、まるで呪文のように響き、彼の存在をさらに神秘的なものに感じさせた。

「カシミール……」

私はその名を心の中で繰り返した。彼が弾くギターの音が、その名前と共鳴しているかのようだった。彼の存在が、このネコメタルの世界において特別なものであることを、私は強く感じた。

こうして私は、「ルナティック・ナイト・ホール」と呼ばれる場所に導かれ、そこで出会った二匹のネコ ― ボマーとカシミール ― の名を知ることになった。彼らはただのネコではなく、この世界で特別な存在であり、私は彼らと出会ったことで、何か大きな運命に巻き込まれたのだと感じていた。

それは、私の知らない世界での新たな冒険の始まりだった。